君の名を呼んで 2
世間話を少々
「調布?」

私が聞き返した地名に、城ノ内副社長が頷いた。

芸能プロ、ブランシュネージュ・プロダクションーー通称『BNP』の社内会議室でのミーティング中。
私は上司である城ノ内副社長と二人きり。

もうすぐ29歳になる若き副社長で、元モデルの彼は、その長い脚を組み替えて端正な顔で私を見た。
デスクをトン、と指で叩くのは、煙草が吸いたくなってる時の彼の癖。
綺麗な長い指に見とれてしまう。


「国道沿いにスタジアムがあるだろ。その隣の空き地にオープンセット建てたんだと。しばらくはそこで撮影」


何度か見た事のある、大きなドームを思い出す。
確かにあの辺は広大な空き地になっていたっけ。

「渋谷からロケバスより、家から車で行った方が近いだろ。明日は出社しないで、直接現地入りしていいぞ」

確かにそれだと余裕ができるかな。
時間配分を考えて頷いた。

「ありがとうございます」

すずにメールしとこうと携帯を開きかけて、昨日受信したメールを思い出す。

「そういえばそのスタジアムで今、ジェイズがツアーやってるんですよ。蓮見君からのメールに……あ」

自分の失言に気づいて、私は城ノ内副社長を見上げた。

「雪姫てめえ、旦那に黙って他の男とメールするとはどういう了見だ、ああ?」

しまった!!

「いやあの、世間話を少々」

「世間話ぃ?危うくお前を喰いかけた世間知らずの国民的アイドルと、どこの世間の話をするんだ?」

あう。身も蓋もないわ。
私を責める言葉の割に、彼は始終楽しそうで。
ううう、からかわれてる。絶対!!


「お仕置きが必要だな、雪姫」

「ちょ!待って下さい、まだ仕事中で」

「夫婦間のコミュニケーションは大事だよな?」

「か、会議室は会議するとこです!ぎゃあ、ちょっと!?ダメだってばダメー!!」


そう、私 梶原雪姫、23歳。職業、芸能マネージャーは。

戸籍上、城ノ内雪姫。

れっきとした、この城ノ内副社長の妻だったりするーー。
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