君の名を呼んで 2
「だってさあ、城ノ内君がいつまでもスイートハニーを隠しまくるからさ。つい見たくなっちゃったんだよねー。ズルくない?俺だって貢献したのよ、雪姫ちゃん救出作戦」

 それで、慌てて頭を下げた。

「ありがとうございました!おかげで、無事助かりました」

「いえいえ、お礼ならその可愛らしい唇でちょっとここにチュッと」

 水瀬先生は自分の唇を指し示す。

 ああ、なんかこのノリ、どっかのお義兄様にソックリ。皇が嫌がる筈だわ。


「みーなーせー先生?」

 遥さんが笑顔のまま窘める。
 水瀬先生はそちらに向き直った。

「遥ちゃんが代わりにしてくれてもいいよ?」


「水瀬、死にたいの?」


 さっくりと割って入ったのは、やっぱり、冴木先生。
 さすが、妻のピンチは瞬時に嗅ぎ分けるらしい。

「冴木~。いいじゃん、減るものでもなし」

「減るよ?主にお前の寿命がね?」

「あ、何その拳。減るどころか、一瞬で搾取しようとしてない?」

「その方が世の為かなと思って。俺も人並みにエコに貢献しなきゃな?」

「俺は公害扱いか!」


 いつもより砕けた口調の冴木先生は、本当に水瀬先生と親友なんだなと私に思わせた。
 ちょっと皇と真野社長の雰囲気にも似ていて、信頼し合っている感じ。

 しばらく冴木先生とジャレていた彼だけど。


「あれ?雪姫ちゃんて……」

 水瀬先生はふと真顔になり、私を見て呟く。一瞬、冴木先生が彼を見た。


 ん?何か私、おかしいところある?


「……水瀬、そろそろ時間」

 冴木先生の一声で彼は腕時計を見て、あっと口を開けて。


「じゃあ、またね。雪姫ちゃん」

 そのまま病室からニコニコと出て行った。
 遥さんが残った冴木先生を見上げて、彼は視線に応えて頷く。

 二人の間にどういう意思疎通があったのかはわからないけれど。
 ただそれだけのやり取りなのに、二人の絆が見えた気がして。

 
 私は無性に皇に会いたくなった。
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