君の名を呼んで 2
 私は会場を回って、片付けをチェックしていく。
 ライブが終わった後の余韻に、頬が緩んで。

 こういう達成感を一緒に味わえるから、マネージャーは辞められない。


 ふと、壁に寄りかかる人影を見つけた。


「要……」


 彼が、そこに居た。
 少しだけ、躊躇いながら、それでも私は彼に近づいた。

「要、来てたの」


 まだ頭に巻かれた包帯が痛々しい。
 といっても私も同様に両手足と頭に包帯をしていて、それを隠すために長袖のブラウスとパンツスーツだったんだけど。
 それを知っているのか、彼は私の手首に視線を落とした。


「雪姫、ごめん」

「このことなら要のせいじゃないよ。むしろ巻き込んでごめんなさい」

 私が頭を下げると、要は首を振った。

「城ノ内さんに助けられたんだってな」

 頷けば、彼は寂しそうに笑った。


「……もうお前のヒーローは、俺じゃないんだな」


 彼を思いやる言葉も、期待に応える言葉も、何も言えなくて。
 ただごめんなさい、と呟いた。
< 110 / 140 >

この作品をシェア

pagetop