君の名を呼んで 2
 プロダクションが正式にスタートする目処がついて、真野に「社名はどうする?」と問われた。
 ふと口をついて出たのは。

「白雪姫……いや」

 俺の母親がフランス系クォーターなこともあって、フランス語に乗せてみる。


「ブランシュネージュ・プロダクション」


 真野は首を傾げて、

「シンデレラじゃないの?芸能プロだし。なんで、白雪姫?」

と言ったけれど。


「初恋の女」

 と答えたら、ロマンチストだね、と笑った。
 イヤに優しい笑顔は、帝から俺の初恋の話を聞いていたのかもしれない。


 そして。


「梶原雪姫です。宜しくお願い致します」


 BNPの新入社員面接。
 俺の前に座るそいつは。
 あの日に感じた衝撃をまた、俺に与えた。

“ドクンッ!!”

 妙に音を立てる心臓を誤魔化そうと、目の前の履歴書に視線を落とした。

 梶原雪姫……?

 その名前にハッとする。

『白雪姫』

 名字こそ違うが、そもそもアレだって芸名かもしれない。
ーーあの時の、彼女なのか?

 受け答えは意志の強さを感じて、流されなさそうな雰囲気がある。
 目が合ったなら、少しだけ緊張した面持ちで、それでもあの笑顔で見つめられて。

 二回目の、一目惚れをした。



「真野、今回の応募者だけど、こいつどこ志望?女優?モデル?」

「梶原さん?彼女はマネージャーだよ」

 マネージャー?出る方ではなくて?

「ああ、でもあの子、喋り方とか訓練されてるよね。容姿も良いし、裏方はもったいないと思うんだけど。本人が最初から、強くマネージャーを希望してきたんだよ」

 彼女に何があったのか。
 キャストとして挫折してスタッフに回るなんてことは、無くも無いけど。
 彼女には挫折なんて似合わない気がした。


 傍に置いておきたい。彼女を知りたい。


「梶原、採用。こいつはここに入る運命だな」


 俺にとってのーー運命だ。
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