君の名を呼んで 2
 梶原雪姫はあらゆる意味で、俺の思い描いていたような女ではなかったーー。


 可憐な容姿とは裏腹に、遠慮皆無。

「城ノ内副社長、格好イイよねー」

 なんて騒ぐ女共とは違って。

「私はあんまり。怖いし。仕事以外で自分の容姿を武器にする男って好きじゃない」

 ハッキリそう言って、最初は俺にもそう接した。
(今考えれば、このあたりは父親に対する雪姫の複雑な思いだったんだろうけど)


「でもすごく、尊敬はしてる」


 その言葉を口にした彼女は、心からそう言ってくれていたようで、何かと熱心に仕事の教えを乞うて来た。
 けど冗談に紛れさせた口説き文句や隠れた下心なんて気づきもせず、女関係の文句や毒舌はズバスバ突きつけてくる。

「城ノ内副社長っ!またアイドル泣かせましたねっ!あなたいい加減にして下さいっ」

「じゃあ雪姫が解消してくれんの、欲求不満。カラダで」

「うふふ、拳なら自信ありますよお?そのご自慢のお顔、崩して差し上げましょうか?」


 触れれば壊れそうな繊細さなど無く、仕掛ければ落ちそうな容易さも無く、彼女はひどく、俺を手こずらせる。
 簡単に落ちない、誰よりも落としたい女。
 その姿は正に仕事バカ。鈍感純粋にもほどがある。
 俺としたことが、“鬼副社長とお気に入りのオモチャ社員”を何年も続けてしまって。

 せめて他のヤツに落とされてくれるなよ。

 なんて思いながら、その距離を壊せずにいた。


 梶原雪姫はその容姿ながら、マネージャーという立場で敷居が低く見えるのか、やたら現場で口説かれる。

「お前また変なのに絡まれてたろ」

「え?挨拶って名刺戴いただけですけど」

「隙があり過ぎんだよ」

「ええっ!?そんなことありませんっ」

 両手をヒーロー風に構える彼女。
 馬鹿、そういう意味じゃねえよ。
 
 周りに気づかれない程度に牽制しつつ、際どい口説き文句を繰り返して、雪姫を手に入れるために策を巡らす。
 この顔と身体を営業ツールとして利用して来た俺には今更すんなり生き方を変えることは出来ず、相変わらず女をはべらせていて。
 それが彼女に本気にされない要因だとは気づいていたが。

 それでも少しずつ、少しずつ。
 軟化してくる態度と、素直じゃない口調の陰に隠れた尊敬と、好意。
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