君の名を呼んで 2
 二ノ宮朔
 23歳 BNP俳優部所属

 その定評ある演技で映画、テレビ、舞台と数々の分野で活躍を見せ、若手俳優の中ではトップクラスの実力を持つ。
 初主演映画では製作にも深く関わっている。


***

「はい、オッケーです」

 カットがかかって、目の前の女の子から離れた。

「二ノ宮さん、素敵でした~」

「どうも。お疲れ様」

 赤い顔ですり寄る彼女をかわす様に立ち上がると、ADに次のシーンの確認をしに行く。

「はい、じゃあこれで……。あ、二ノ宮さん、さっきBNPの藤城さん来てましたよ」

「え?」


 突然の名前に、思わず顔を上げた。
 藤城って、すず?

 雪姫にこっそり聞いていた、彼女のスケジュールを記憶から引っ張り出す。
 確か今日はドラマの番宣。そうか、あのドラマはこの局だった。

「撮影観て、マネージャーさんとさっき出ていかれましたけど」


ーー見られた。
 キスシーンを?

 一瞬セットを出ようとして、何を動揺しているんだ、と自分を抑える。

 演技を観られただけだ。
 今までだってこんなのは何度も演ってきたし、この先もあるだろう。すずだってプロの女優だ。

 なんて、動揺した気持ちを誤魔化す。
ーー自分を棚にあげて。


 すずにキスをしたのは、冗談でも、軽い気持ちでも無かった。
 けれど、冷静だったかといえば、そうじゃない。

 彼女の初めてのキスが、他の男に持っていかれるかと思ったら、演技とはいえ悔しくて。
 動揺する顔が、はにかむ顔が可愛くて、無性に愛おしくて。
 さりげなさを装うのが精一杯だった。

 した瞬間、

「先輩ばっかり余裕で、ヤダ!」と、すずに逃げられたけど。


 余裕なんか無いのに。
 でも俺も、順番を間違えた。城ノ内さんの事ばかり責められないな。
 だからせめて、彼女に誤解される前に、告白しようと決意していたんだ。


ーーけれど。
< 127 / 140 >

この作品をシェア

pagetop