君の名を呼んで 2
 まるでタイミングを計っていたかのように、呼び出された社長室で、

「朔、別に恋愛自体は君の自由だよ。だけど、自分の立場は忘れない事。ちゃんと相手を守れるの?」

 俺の気持ちを見透かしたように、真野社長が言った。

 雪姫達の時とは、まったく次元が違う。
 自惚れる訳じゃないけど、俺はある程度認知度のある俳優で、
 すずはまさに評価されはじめた、伸び盛りの女優。

 交際できたとしてもお互いに人気が下がったり、もっと酷ければ、人気俳優と付き合うことが、彼女の売名行為だと嫌がらせされたり、言いがかりをつけられる可能性すらある。


 一瞬で、現実に引き戻された。

 無責任に彼女に告白して、俺はすずを守れるのかーー?




 撮影を終えてBNPに戻った俺は、休憩室に一人座るすずを見つけた。
 彼女も俺に気付いて、立ち上がる。

「お疲れ様です、二ノ宮先輩」

「お疲れ様」

 お互い、相手に聞きたいのに、核心に迫る言葉は言えなくて。しばらく黙ったまま、視線を絡ませる。
 けれど最初に踏み越えたのはすずだった。

「撮影、観ましたよ。やっぱり先輩は凄いですね。まるで、ホントの恋人同士みたいだった」

「すず」

 その肩を、抱きしめようとした時。


「あたしも、頑張らなきゃ」

 すずが、呟いた。


ーーダメだ。
 俺の欲で、すずの女優人生を左右するかもしれないなんて。
 こんなに、頑張ろうとしてるすずを、邪魔する権利なんて俺には無い。


「そうだな」


 しっかりしろ。俺は、『二ノ宮朔』だーー。


 頭の中で、“カチン”とスタートの音が鳴る。
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