君の名を呼んで 2
***

「ーースタート」

あたしはーーううん、『ユウカ』は目の前の彼を見上げる。

近づく相手に、目を閉じた。



「すず、お疲れ様」


雪姫ちゃんがあたしの背中を軽く叩いた。
それがひどく優しくて、あたしは自然に力が抜ける。

撮影スタジオを出た廊下で、相手役の俳優に呼び止められた。

「すずちゃん、あのさ、今日メシ一緒にどう?」


少し赤く染まる頬に、あたしへの好意がありありと浮かんでる。
自意識過剰ではなくて、彼にはもう何度となくアプローチをされていた。

恋人役をやった共演者に、恋をしちゃうってホントなのかな。
あたしは今までそんな風に思った事はないけど。

いつも、目標は二ノ宮先輩だったからーー。


こういうのも、失恋の傷を癒やす、新しい恋かなあ。
なんて思いながら、たまにはいいか、と返事をしようとして。


「悪いけど、先約あり」


あたしの視界を遮るように、広い背中が前に立った。

「え……?」

見上げると同時に、その人は振り返って。
あたしの手を掴んだ。


「藤城すずは、ずっと俺が予約済み」


どうして。


「二ノ宮先輩……?」


あたしは呆然と呟いた。
先輩はあたしを見て少しだけ微笑むと、強く手を引いて、あたしをそこから連れ出した。
共演者の俳優が何か言っていたけど、もうそれどころじゃない。
廊下の向こうで雪姫ちゃんが小さく手を振っているのが見えた。

「先輩、なんで?」

頭の中は『?』で一杯なのに、二ノ宮先輩は答えてくれない。
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