君の名を呼んで 2
あたしはついていくのに精一杯で。

やっと彼が止まったのは、テレビ局の駐車場に停められた彼自身のものらしい車の前だった。

「乗って」

あたしは首を横に振る。
いくら関係者用の駐車場だって、周りには人が結構居て。
スタッフだからかあからさまに聞いてはこないものの、好奇心に満ちた目を向けられている。

「噂にでもなったら、困るんじゃないですか」

少しだけ意地になって呟けば。
あたしのひねくれた言葉に、先輩はあたしを引き寄せて車の窓ガラスに押し付けてーー


「何言われても、もう良いんだ」


ーーキスをした。


「!」

な、何!?なんで!?

小さく聞こえた、女性スタッフの悲鳴に青ざめる。
カンペキに見られたよね、今!

混乱するあたしを、彼は車に押し込んでエンジンをかける。


なにこれ。
なんなのこれ。
なんか、先輩ぶっ飛んでない?


「なんで!何してるんですか!?あたし先輩に振られたんですよね?」

「少し、黙ってて」

食ってかかっても、彼はしばらく黙ったまま、車を走らせて。
あたしはグチャグチャの思考のまま、それ以上何も言えずにただ座っていた。


やがて昨日の公園に着くと、先輩は車を停めて、あたしのほうを向いた。

「昨日は、ごめん」

昨日を思い出して、胸がギュッとなる。

あの後、二ノ宮先輩はぐったりと横たわるあたしからすぐに離れて。
雪姫ちゃんを呼び戻すと、あたしに何も言わずに帰っちゃったんだ。

雪姫ちゃんは「朔を信じてあげて」って言ったけど、あたしにはもう望みは無かったはず。
そう思ったから、忘れなきゃいけないと自分に言い聞かせていたのに。


なのに、何故?
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