君の名を呼んで 2
い、今じゃない?
「城ノ内さんと旅行に行くの」って一言言えばーー。


「あ、ここで良いです!ありがとうございます、梶原さん」


けれど無情にもタイムアップ。
駅までの短い時間では、私にはなす術もなく。

「気をつけて、また明日ね」

って、笑顔で見送るしか無かった。


ふう、と息を吐いて、信号待ちにハンドルに額をくっつける。

考え過ぎ、だよね。

皇の周りなんて普段から、綺麗なお姉さん達で溢れてるのに。
結婚してたって構わずにアピールしてくる女性だってたくさん居る。

なのにどうして?


こんなに胸騒ぎがするんだろう。





その後一度社に戻って、仕事を片付けて。
皇と一緒に帰宅するなり、椅子に座らされた私。

「雪姫、さあ吐いてもらおうか」

ダイニングのテーブル越しに詰め寄られて。
どっから持って来たのか、デスクライトを当てられ気分はすっかり取調室。
脚を組んで尊大に座る皇が刑事役なら、私みたいな小心者の犯人はひとたまりもない。

ああ、だから帰り道のスーパーで丼を買ったのね……。
皇、ノリノリだわ。


「初恋が、なんだって?」


……しっかり聞いていたらしい。

「初恋?そんなこと言いました?」

「ちなみにすずからウラは取ってあるからな」

……すず~!


用意周到な皇に逆らえず、結局渋々、要のことを話したなら、

「ああ、あいつか」

彼はあっさりと言った。
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