君の名を呼んで 2
「お疲れ様です!」

弾むような声に振り返ると、ナナミちゃん達三人がトレイを手に近づいて来た。

「お疲れ様」

三人は頬を染めながら、すずと朔に頭を下げる。

「二ノ宮朔さんと、藤城すずさんですよね、ドラマいつも観てます」

「宜しくお願いします!」


うちの一番の稼ぎ頭である朔も、だいぶ知名度が上がって来たすずも、新人さん達には憧れの存在。
きゃっきゃと少し興奮した面持ちで挨拶する彼女達に、すずと朔は“役者”の顔で微笑んだ。

「宜しくね」


ああ、猫かぶってるなあ。

彼らの営業用の顔に、私と城ノ内副社長は、クスリと笑って顔を見合わせて。
それを見ていたナナミちゃんが副社長に話しかけた。


「あの、城ノ内さん。今日はお忙しいですか?私、ご相談したいことが」

「ああ、ならメシ終わったら会議室で聞く」


さらりと答える城ノ内副社長に、ナナミちゃんはなおも食い下がる。


「時間が、かかるかもしれないので、できればレッスン後ではダメですか?」

チラリとすずが私を見た。けれど今度は口を開くことなく、視線を揺らす。
いつもの彼女なら、「ダメ!副社長は雪姫ちゃんの!」なんて言い出しそうなのに、朔がさりげなくまた、彼女に目配せして止めたみたい。
私は朔に感謝しながら、何でもないようにハツミちゃん達の話に加わった。


「ーーじゃあ、レッスン後で」

城ノ内副社長の声が聞こえて、彼女達はそれぞれ食事をしに行った。


すずと朔と別れて、私はオフィスへ戻ろうとして。
クイッと襟首を後ろから引かれる。


「痛っ……」


思わず上向いた私の顔に、覆いかぶさる、皇の唇。
私の唇の上で、チュ、と軽い音を立てた。
驚くより先に、彼の黒い瞳が離れるのを追って振り返って、ついポツリと呟いてしまう。


「……社内ですよ」

「休憩時間だろ」


まわりには誰もいないとは言え、どこで誰が見てるかわからないのに。

かすかな不安を見透かしているのか。
私を宥めてるつもりなのか。


「大丈夫ですよ」


笑顔でひとこと、呟いたら。

またキスが落ちてきた。
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