君の名を呼んで 2
side すず


「なんで、ダメなの」


あたしはブウっと頬を膨らませて抗議した。
前を歩く二ノ宮先輩が、立ち止まる。
子供を諭すような瞳に、つい反論したくなって。

「だって、雪姫ちゃんが可哀想じゃん。他の女の子が近づいても、奥さんですって言えないの?営業は社外に対してでしょ?あの子はBNPのコだし。新人で、若いからって過保護過ぎない?」

確かにあのくらいの年代(あたしとほぼ一緒だけど)には、失恋なんて一大事かもしれないけどさ。
なら余計、早めに現実知るべきじゃない?

あたしの文句に、先輩は少しだけ苦笑いして。


「雪姫はさ、俺たちを凄く大事にしてくれてるだろ。板ばさみみたいな状態にしたら、きっと凄く苦しいんじゃないか」


あ。

あたしを守ってくれた雪姫ちゃんを思い出す。
雪姫ちゃんは、困ってるあたし達を見捨てたりしない。
あのナナミって子が本当に悩んでたら、きっとチカラになろうとするだろう。
恋敵だなんて思わせて、あの子が遠慮したり苦しんだりしたら、雪姫ちゃんは自分を責めるだろうな。


「だけど、さ……」


理解はしたけど、納得できずに俯くあたしの頭を、また先輩が撫でた。
その優しい笑顔は、演技じゃない、ホンモノの笑顔。

その微笑みが、あたしを黙らせるんだ。

「ホントにすずは雪姫のこと、好きだよな」

そりゃもちろん。

間髪入れずに頷いたあたしに、先輩は耳元まで近づいてこっそり囁く。

「ねぇ俺の事も、それくらい好き?」

「ニャッ!?」

動揺のあまり、変な音鳴ったじゃん!


「そ、そ、そりゃあ……。……好き、だけどっ」


あたしの言葉に満足したのか、クスリ、とちょっとイタズラめいたその顔が離れて。
話の続きを伝えてくる。

「城ノ内さんがしっかりしてれば大丈夫だよ」

「それが信用出来ないのに~」

あたしが口を尖らせて言ったら、二ノ宮先輩は可笑しそうに笑った。

「意外に、城ノ内さんの方が大変かもしれないよ?」
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