君の名を呼んで 2
勢い良く立ち上がった私は、自分の足腰の状態を完全に忘れていて、
いきなりかかった負荷に、ガクリ、と膝が折れる。

「……っ!」

床にへたり込みそうになった瞬間、

「雪姫!」

要が私を抱き止めた。

「大丈夫か」

「う、うん……ありがとう」


助かった、けど。
この距離は、マズイ、よね。
皇のことばかりを責められない。
昔馴染みだからと、迂闊に一人で会いに来たのは間違いだったかもしれない。
この鈍感女、と罵る旦那様の声が聞こえるようだわ。

咄嗟に彼の胸に手をついて、離れようとした。
けれど要は強く私を引き寄せる。


「は、なして。要ーー」


戸惑いながら彼を見上げたら。
その視線が私の背後に向いていることにギクリとした。

まさか。


「雪姫」


その声は、間違えようもない。

私にとっては、誰よりも愛おしい人の。


「皇……」


何かを言う間も無く、皇は足早に私達へ近づく。
怒られる!と身構えた私をよそに、彼は乱暴に私を引き寄せて、その胸に抱きしめてーー。

それからやっと、弾かれたように要を見た。


「ああ、お前か……」

え?


その手から力が抜けて、安堵したような声音に、妙な胸騒ぎを感じる。
予想外すぎる反応に、要も同じように怪訝な顔をした。


「……どうか、したんですか?」


彼の問いかけに、皇はハッとして取り繕うように、いつもの笑みを浮かべた。


「いや。留守番を頼んだ筈の馬鹿猫がこんなトコに居たのに驚いただけだ」

馬鹿猫って!
化け猫みたいなフレーズで言われて私は口を尖らせる。

「うちのが、世話になったな」

短く言い捨てて、皇は私の背を押すように外へと促した。

「要、じゃあまたね」

皇の陰から挨拶する私に、彼は笑顔で手を振ってくれた。
< 40 / 140 >

この作品をシェア

pagetop