君の名を呼んで 2
皇が予約してくれた旅館は、交通機関からは離れて居たけれど、その分静かで趣き深い老舗旅館。
芸能人やら政界の方々も利用するような、まさに隠れ家的な場所だった。


「誰かと来たことあるの?」

なんて軽い気持ちで聞いたなら、彼は馬鹿、と呟いて首を横に振った。

「両親の紹介だ。俺が仕事休んで、女の為に時間を作ると思うか?」

仕事の鬼はそう言ってニヤリと笑う。


「……今まさにそうしてるじゃないですか」

「お前の為だからだろ。……って……引っ掛けたな」


私もにんまり。
まんまと皇に甘い台詞を言わせることに成功して、小さな勝利を味わう。

たまにはいいでしょ!

彼は苦笑しながら私の頭を小突いた。
それにくすぐったさを感じて私も笑う。


部屋に入れば、広い窓の向こうに湯気のたつ露天風呂。
深い緑の木々と、海まで見渡せる絶景。


「うわあああ~っ、凄い!」

感嘆の声を上げる私に、流石の皇も目を見開いて一緒に景色を眺めていた。
絵はがきみたいに綺麗な景色に、つい頬が緩む。

「皇、連れて来てくれてありがとう」

彼を振り仰いで言えば、皇はビックリしたように私を見た。

「なんだよ。素直過ぎて怖いな」

なにそれ。

「いつも素直じゃないですか」

「どーだか。……それに、お礼ならこっちがいい」


目を閉じる間も無く、キスが降って来て。
私は彼の腕に閉じ込められた。
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