君の名を呼んで 2
「……雪姫」

その瞳は、彼らしくないほど揺れて。
いつもなら会社の、彼らのために即決する城ノ内副社長が、私のために迷ってくれているのを感じた。

「……俺は」

だから、それだけでいい。
充分だよ。


「行ってあげて」


……私も、嘘をついても、いいでしょう?


「私なら、大丈夫です」

「雪姫」

皇に笑顔を向けて。
私の言葉に、彼は安堵とも諦めともつかない溜息を漏らした。

「悪い。今夜中に、絶対帰るから。ここで待ってろ」

皇は私をぎゅっと抱き締めてキスを落とすと、ニヤリと笑う。

「とんだ誕生日になっちまったな。帰ったら思いっきり祝うから。朝までお前に尽くしまくる」

「……バカ」


赤い頬を押さえて皇に返せば、彼はわずかに微笑んで、部屋を出て行った。



独り、残された私はそのまま膝をついて座り込む。


ナナミちゃんに何があったんだろう。
皇を一人で行かせたくなかった。
けど私が行ったら、彼女はきっと皇にすら心を閉ざしてしまうかもしれない。

ーー嫉妬なんて、してる場合じゃない!
皇がナナミちゃんを選んだなんて、考えちゃ駄目。


混乱する頭のまま、自分をどうにか納得させたくて、呟いた。


「だって……仕方ないじゃない……」


涙も出ないまま。
私は何度も何度も呟いて。



ーーその夜、皇は戻らなかった。
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