君の名を呼んで 2
BNPで良く使うホテルは、すぐに部屋を用意してくれた。
ナナミを部屋に先に入らせて、俺は一度ロビーに戻り、携帯で真野に状況を報告する。


『すまないな、城ノ内。せっかくの休暇に』

「まったくだ」


近場にしたのが仇になった。
けれど大事にならずにホッとしている自分も居る。


「雪姫と部屋付露天でイチャつく筈だったってのに。あいつの浴衣姿拝むまで仕事しないからな」

限りなく本音に近い冗談を言えば、電話の向こうで真野は苦笑したようだ。

『梶原ちゃんにも悪いことしたな。誕生日祝い、俺からも改めて何か贈るよ』

その言葉に腕時計を見下ろす。


ーー22時。


思ったより時間がかかってしまった。
けれど今すぐ出れば、ギリギリ日付けが変わる前に雪姫の所へ戻れるだろう。

真野とは今後の対応をいくつか相談し、電話を切った。
交渉事にかけては、俺より容赦無い真野のことだ。
ナナミの家のことは任せておいて間違い筈。

問題は、家族じゃなくーー。


ナナミの居る部屋に入れば、彼女は不安気に俺を見る。


「ナナミ、BNPから女性マネージャーを呼ぶから、そいつについててもらえ。明日真野がご両親に話しに行く。悪いが俺は戻らないとーー」


言いかけた俺に、ナナミが勢い良く抱きついた。


「行かないで下さい!」


背中に回された腕に力を込められて、じっと見つめられる。
その瞳から涙が零れ落ちた。
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