君の名を呼んで 2
今までさんざん、女性と居る彼を見てきた。
付き合う前は、私の前で他の女とあれこれしてたような人なのに。

だけど。


「皇が、最良の選択をすることを、よ。
彼が何をしても、それが彼が選んだことなら私は信じるの」


そう。
せめてこれぐらい、言わせてよ。
強がりでも、嘘でも、見栄でも。

私は城ノ内皇の、奥さんなんだからーー。


彼女は眉を上げた。


「それって、城ノ内さんが決めたことなら、浮気も許すってことですか?」

「許すわけないじゃない。ムカつくし、悔しいし、泣くと思うわよ。殴るか、蹴るかもよ」


けどね。


「あなたは城ノ内副社長が大事に育てているアイドルだもの。そんなあなたに彼が手を出すわけない」


私と結婚する以前の城ノ内副社長だったとしても。
デビュー前のアイドルに手を出すなんてことはしない。


BNPの『商品』だから。

ーー彼にとって『商品』て単語は『宝物』と同義語なんだから。


「私が、頼んだとしても?」

ナナミちゃんはなぜか泣きそうな顔をして言う。


「あなたの為だからこそ、よ。それにね」


そこで私はちょっとだけおどけて軽く言ってみる。
いつもセクシー大爆発な受付嬢をこっそり指差した。


「城ノ内副社長の好みって、どっちかっていうとあーゆーお姉さま系なの。だから浮気の心配するなら、あっちかな」


ナナミちゃんは一瞬きょとんとして。
ーーそれから吹き出した。


「なるほど、私じゃ駄目なわけだ!」

明るく言って、吹っ切ったように私を見た。


「ごめんなさい、梶原さん。私、馬鹿でした。城ノ内さんは最初から最後まで私なんて相手にしなかった。梶原さんのこと、すごくすごく愛してるんですね」


ーー私は目を丸くして。
それから顔が一気に熱くなる。


「あはは。梶原さん、顔真っ赤」

「こら!大人をからかわないっ」


私はナナミちゃんと笑い合って。
やっと彼女に一歩、近づいたんだ。
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