君の名を呼んで 2
そのままレッスンに向かったナナミちゃんと別れ、一人でオフィスに戻ろうとしていた私だったけれど。
途中の廊下でいきなり腕を引かれて、そのままそこにあった会議室へ倒れこむように引っぱりこまれる。

「うわっ、なっ……ん!」

振り返ると共に唇を塞がれた。

最初に気付いたのは煙草の香り。
ピリピリと痛みに似た苦味が舌に移る。
ーーこんなことをする犯人はわかってる。


「こうっ、ここ、会社……」

私の抗議なんて、最後まで言わせずに。

「俺がすることなら、何でも信じてくれるんだろ」

「……聞いてましたね、さっきの」

その言葉と色気たっぷりの視線を向けられる。
私は彼を見上げて軽く睨んだ。
もちろん、そんなことで怯む彼じゃない。

「やっぱりお前、最高、馬鹿」

「それは最高に馬鹿ってことですか?馬鹿だけど最高ってことですか?」

褒めてるんだか、けなしてるんだか。
私の顎を掴んで上向かせる彼の手を何気なく見て、そこで目を見開いた。


「……あ」

「全部、お前のものだ」


また、そうやって私を喜ばせて。
最後にはあなたから逃げられなくなる。


今度のキスはゆっくり、目を閉じる。
私の頬に零れた涙を拭う、皇の手。

その左手の薬指には、プラチナのリングが光っていたーー。
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