君の名を呼んで 2
***

「あのアイドルさんが喋ったんだ?」

皆からは少し離れた建物の裏手で、私は要と向かい合っていた。
彼はナナミちゃんに指示していたことをアッサリ認めて、私を見つめる。

「要、なんでこんなことするの?」

私の問いに、彼は眉を寄せた。

「お前のことが心配だったんだよ。城ノ内さんは女関係でいい噂無いし、あのアイドルとは利害が一致しただけ。……まあガキはすぐボロが出るとは思ったけどな」

私は要の言葉に不愉快さを感じた。
反論しようと口を開く。


「……城ノ内副社長のことは、全部わかってて、私は彼と結婚したのよ。心配してくれるのは嬉しいけど、何があったって、私と彼の問題なの。要には関係ないし、ナナミちゃんを利用する権利も無い」

「関係無い?」

要の目が、強く私を見据える。


「関係なら、ある。お前は俺だけ頼ればいい。子供の時のように」


その表情に、穏やかでないものを感じて、私は一歩下がった。

「要……?」

私が下がった分なんて半歩で取り戻して、更に踏み込んで来た要。
そのまま私の身体を閉じ込めるように壁に両手をついた。

「雪姫、あの頃みたいに俺を見ろよ。お前の味方は俺だけだ」

「違うーー」


首を横に振る私の動きを押さえつけるように、要が私の顎を掴んだ。

嫌だ。すごく嫌な感じがする。

「私は要のペットじゃない。ちゃんと自分の意志があるの」


これは恋愛感情じゃない。
歪んだ責任感と執着心。


「そう、なら」


要は薄く笑う。


「誰もお前を汚せないように、閉じ込めちゃおうか、雪姫」
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