君の名を呼んで 2
言われた台詞に、身体が硬直した。
小さい頃私のヒーローだった要のくしゃっと浮かぶ笑顔を思い出そうとして
目の前の彼に掻き消された。

「かな、ちゃん」

「要、だろ」


何言ってるの。
何て顔してるの。

私の耳元まで唇を寄せて、要はクスリと笑う。

「雪姫、一緒に役者をやろう。お前ならすぐに“こっち側”に戻れる。」

何度か彼に繰り返された台詞。

「私は、自分でマネージャーの仕事を選んだの」

要を睨みつけて、言い返せば彼は私の身体を抱き寄せるように両手で捕らえて。視線が唇をなぞってゆく。
完全にセクハラだ。
抗議しようと要を見上げれば、彼は私の言葉なんて聞こえていないように見える。


「お前は綺麗だよ」


ぞくり。

普通なら褒め言葉のそれは、今の私には恐怖を感じるだけのもの。
だってまるで、人形や標本の蝶を眺めるような瞳。


「要、怖い」

身をよじるけれど、彼の腕から抜け出せない。

「城ノ内さんは、お前を不安にさせてばかりなんだろ?結婚したら男が変わるなんて幻想だ。この先もずっと、同じことの繰り返し」


言われた言葉は、きっと真実。
だけど、私は……。

要は私に、なおも優しく囁いた。
もう唇が触れそうな距離で。
その手が私の腰を滑り降りてゆく。


「なあ、言えよ。俺のものになるって。マネージャーを辞めるって」
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