君の名を呼んで 2
過去は振り返らない主義なんです
かすかに煙草の香りがして。


ああ、また皇ってば吸ってる。
いい加減本数減らしてもらわなきゃ。


でもいつも隣に感じる彼のぬくもりは、今は無くて。
この煙草の香りは私に移った残り香だと気づいたら、無性に寂しくなった。

皇、と呼ぼうとして、目を開けた。


薄暗い部屋。
かろうじてわかるのはデスクと、パソコンと、オーディオ。
私が寝かされているベッド。

見たこともない部屋だった。


「ここ、どこ……」


呟いた瞬間、側頭部に痛みが走る。

そうだ、私、誰かに殴られたんだっけ。
ううん、私だけじゃなくて、要も……!

身を起こそうとして、手首に感じた違和感に目を向け、ぎょっとした。


「何これ」


私の両手首は頭の両脇、それぞれベッドの柵にビニール紐でグルグル縛られていて。
ハッとして視線を下ろせば、両足首も同じように固定されていた。


「……さすがに皇じゃないよね、これは」


その方がどんなにマシだったか。


痛む頭を軽く動かして、思い出そうとする。
殴られる前に見た、あのーー瞳。
あれを私、前にも見た。

ぞくりと肌を震わせて、唇を噛み締める。


「あの人……」
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