君の名を呼んで 2
「あのね、私はもうユキちゃんでもないし、白鷺雪姫でもないんです。当店はもう、そんなものは取り扱いしておりません！過去は振り返らない主義なんです！」

縛られた腕のまま、バタバタと動く範囲で手の平を動かして抗議する私は、いまいち緊張感が無い。

「それに私はもう結婚してて」


ーーバンッ！！


男がいきなり壁を叩いた。
ビクン！と跳ね上がる身体と心臓。


「君はいけない子だよね。僕というものがありながら、あんな野蛮な男や嫌らしい男に近づかせて」


……野蛮、て皇かしら。
……嫌らしいって、要？それとも逆？どっちでもあながち間違ってはいないけど。

男はベッドのすぐ側まで来て、私を見下ろした。


「雪姫ちゃん、いい子にしてないと」


その目がゆっくり、私を眺め回す。
冷たい視線に、私は重大な事実に思い当たった。


そうだ、私はこの人に殴られたんだ。
打ち所が悪かったら、死んでいたかもしれないのに。
彼は私を傷つけることを、躊躇しなかった。


彼は、私を、殺すかもしれないーー。



「口の利けない、お人形にしちゃうよ？」



背中に、冷たい汗が流れて落ちた。
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