重い想われ 降り振られ
真理子のすぐ目の前まで来て、橘はそう口にした。

あと一歩。

あと一歩の距離。

真理子が踏み出せば、橘の腕の中に飛び込める距離。

その距離が縮められない。

風がざわめく。

「私は、橘さんとはお付き合いできません。」

真理子の胸が、ぎゅっと締め付けられる。

『心が苦しい。』

橘の顔を見れないまま、真理子は必死に零れそうになる気持ちを堪えた。

「お前の気持ちがどうであれ、俺はもう自分をごまかすのを辞めた。
お前を愛している気持ちに変わりは無い。」

橘は冷静なまま静かな口調で真理子に伝えると、そのまま真理子の横を通り過ぎ
屋上を出て行った。

バタンと閉まる扉の音で、真理子の張りつめた緊張の糸が切れた。

その場に座り込む。
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