重い想われ 降り振られ
いつしか真理子の心の中は、橘でいっぱいになっていた事に初めて自覚する。

初めて橘に触れたあの嵐の夜から、握ってくれた手のぬくもりを、
暖かな腕の感触を、真理子は忘れられなかった。

風邪で倒れた真理子を、抱きかかえてくれた時に感じた安心感も。

嫉妬に狂って襲われた時でさえ、真理子は橘を受け入れていた。

忘れたのでは無く、記憶を封印していただけなのだ。

気持ちに嘘を付き、心にベールを掛けてごまかしてきたのは真理子だった。

だが今はもう、手を伸ばす事ができない。

小林の気持ちも菜奈の気持ちも、今の真理子には痛いほど理解できるから。

知らなかった時には、もう戻れない。

恋する気持ちを知ってしまった真理子には、あと一歩の距離が
果てしないほど遠い距離になってしまった。

「あなたを忘れる勇気が、今は欲しい。」

涙が止まらない。
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