重い想われ 降り振られ
戻れない場所
真理子が橘の元を去ってから季節は巡り、すでに一年が経とうとしていた。

窓から見える山々が色づき、鮮やかに着飾っていた。

その景色を眺めながら、真理子は感動し溜息を洩らした。

会社に辞表を出しアパートを引き払い、真理子は実家に戻ってきていた。

実家と言っても、真理子の両親は真理子が高校三年生の時離婚したため、
母親が住んでいるのは小さなアパートだった。

父親は愛人を作り蒸発。

住んでいた家は売り払い、母親が真理子の学費に充てた。

その後何度か引っ越しを繰り返したが、現在は母親の職場に近い今のアパートに
落ち着いた。

小さな田舎街のため、新たな職を探すのは困難だったために、
母親の務める小さな老舗温泉旅館の仲居の仕事を一緒にするようになった。

始めた頃は、あまりの重労働に何度も弱音を吐きそうになったが、
そのたびに真理子は橘との短い時間を思い出していた。

ようやく仕事に慣れ、女将の厳しい指導や冷たい態度も気にならなくなった頃、
真理子は女将からポツリと嫌味を言われた。
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