重い想われ 降り振られ
肉付きのよい、カバにそっくりな顔で幸治は真理子を見た。

他の仲居達がよくこの男の話をしている。

小さな田舎街では、この男の事を知らない者はいないだろう。

毎晩のように飲み歩き、昼間はパチンコ店に出入りするような遊び人だった。

旅館の仕事を手伝う事は無く、女将も頭を抱えるほどの問題児だ。

仲居達の中でも一番歳の近い真理子に、この男はよく声を掛けてきた。

「今はちょっと忙しいので少し後になりますが、いいでしょうか?」

真理子は丁寧に聞き返した。

「少し後のが都合がいいに決まってるだろ。少しは考えろよ。」

馬鹿にしたような態度をする幸治から、真理子は視線を逸らした。

「わかりました。伝えておきます。」

短く答え、真理子は足早にその場を去った。

くちゃくちゃと口にしたガムを噛みながら、幸治は真理子の後ろ姿を見送った。
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