重い想われ 降り振られ
真理子は緊張しながら初めて足を踏み入れた。

扉を開くと住居の玄関フロアに出た。

広い板張りのフロアには、高価そうな置物や調度品が置かれている。

フロアを横切ると、すぐに社長室は見つかった。

プレートが付いた扉を、真理子はノックした。

「香田です。呼ばれましたので、お伺いしました。」

扉の外から声を掛けると、社長の声が聞こえた。

「入りなさい。」

扉を開くと、立派なデスクの向こう側に座りながら書類に目を通している
社長の姿が目に映った。

滅多に見かける事もない社長は女将の旦那でもあり、あの遊び人の父親でもある。

真理子よりも背は低く、頭皮がむき出した小太りのオヤジだ。

高そうな服装を無くせば、この人が社長などとは誰もが気づかないだろう。

デスク前の応接セットのソファーを指し、社長は言った。

「座りなさい。」

社長は顔を上げ眼鏡を外すと、立ち上がった。
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