重い想われ 降り振られ
女将に言われていたように今朝は旅館の方ではなく、社長宅の玄関に訪れた。

女将は真理子を見るなり、フンっと鼻で笑う。

「私は元々反対したんだがね。借金作って逃げた男の娘なんかと一緒にさせるなんて
周りが聞いたら、いい笑い者だよ。育ちの悪い女と息子をくっつけるなんざ、
馬鹿のやる事だよ、本当。」

旅館への渡り廊下を通り、エレベーターで三階まで上がった。

部屋に案内され、中で待つよう言われた。

掃除の終わった客室は、この旅館の中でも一番良い部屋だ。

窓から見える景色を眺めながら、真理子は鳥の声に耳を傾けていた。

普段真理子達仲居が掃除や仕事をしている客室で、こんなにもゆっくり景色を
楽しむ事などあるはずもなく、少し居心地が悪い。

15畳はある畳の和室に、隣は洋室のベットルーム。

ベットルームからは、半露天の小さな浴室が見える。

浴槽に注ぎ続けられる温泉水が、ちょろちょろと心地よい音を奏でる。

綺麗に磨かれたガラス窓に触れ、真理子は頭を付けた。

決心が鈍りそうになる。
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