重い想われ 降り振られ
ただの噂話だ。

橘の人目を引く容姿を見れば、何に対しても噂になるだろう。

だが今の真理子には、それをただの噂話に捉える事はできなかった。

二人のキス現場を目撃しているのだから。

カップにお湯を注ぎ、すぐに給湯室を出た。

噂話をしている声が届かない所に、一刻も早く逃げたかったのだ。

真理子は昔の事を思い出していた。

高校生の頃に振られた男の事を。

振られてすぐに、親友と付き合っていた。

男の顔はもう思い出せないが、
親友の嬉しそうに男の話をする顔は忘れられなかった。

傷ついた過去と、もう恋愛などしないと誓った過去。

『・・・なのに、また傷ついてるのはなぜ?』

直りきっていない体が、また痛み出す。

窓の外はまだ降り続いている雨がガラスに当たり、雨粒が流れ落ちている。

昼だというのに外は暗い闇に覆われていた。
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