アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
だけど今は仕事中。私は顔に怒りを一つも出さずに、梨乃さんにお茶を出した。
お店の一角にあるスペースで飲むのかと思ったが、志貴がお茶とともに梨乃さんを連れて、奥の部屋に入った。
私は思わず「えっ?」と声を出してしまった。
「こいつ声でかいから、今常連のお客様来たら変な噂流されそうだし迷惑かけるから、少し奥で静かにさせてくる。家にはもちろんあげない、庭で立ち話してくる」
「……わかった」
分かってない。でもそう言うしかなかった。
だったら、うるさいし迷惑だから帰れでいいじゃない。そう思った私は鬼?
志貴は、ただでさえ見慣れないスーツ姿でなんだか知らない人みたいだったのに、元カノと一緒にいる彼は、ますます遠い人のように思えた。
奥の部屋へと続くドアがしまる直前、梨乃さんと目があった。なぜか彼女は、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「志貴さんのプレイボーイっぷりも、そろそろええ加減にしてほしいわ。もうちゃんと身を固めたんやから……なあ? 衣都ちゃん?」
隣で呆れたように呟く中本さん。
私は、そんな彼女の隣で、ふつふつとわきあがる怒りを堪えるのに必死だった。
だいたいあっちも既婚者なのに、なんで元彼に会いにくるわけ?!
どういう神経なのそれ!?
ていうか、志貴も私のことちゃんと紹介してくれてもいいんじゃないの!? そこが1番ムカつくんですけど!!
私は、その日1日、般若のような顔にならないよう、貼り付けたような笑顔で過ごした。