アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]

その日は久々にとても忙しかった。

何故かというと、七五三であったから。

中本さんや静枝さんは、早朝から来てくれたヘアメイクさんに挨拶をして、続々と訪れる親子にも、丁寧に打ち合わせの確認をしていた。

私もバタバタしながら名簿を確認して、待合室までお子さんを案内した。

志貴は電話で何か連絡を取って、頭を悩ませているようだった。なにかトラブルがあったのだろうか……声をかけたかったけれど、忙しくて到底そんな暇は無かった。

それから30分ほどして、志貴は携帯を片手に走って店の外に出た。

そして、1人の女性……そう、昨日のあの元カノ、梨乃さんを連れてやって来た。

私はその光景に目を疑った。どうして梨乃さんを呼んだの……?

そんな視線を感じ取ったのか、志貴は私のそばに来て、こそっと耳打ちした。


「ヘアメイクさんが1人高熱だして来れなくなったんだ。……それで急遽、一か八かで梨乃に来れるか聞いたんだ。梨乃も結婚前は美容系の仕事してたから」

「え」

「とりあえず梨乃に手伝ってもらえることになったから。中本さんと母さんにもそう伝えといて」

「わ、分かった」


そう伝えると、志貴は梨乃さんをつれて2階へあがった。

本当に助かった、と梨乃さんに頭を下げている志貴を見て、なんだか胸がちくっとした。

梨乃さんはお店を手伝いに来てくれたのに、どうして私は素直に感謝の気持ちを抱けないのだろう。

そんな自分が嫌になって、私は頭をふって、その考えを吹き飛ばして仕事に集中した。

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