アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]


先輩、本当に好きな人ができたんですね。

だから、早いうちに私をふってくれたんですね。

先輩のその優しさを、私は受け入れなきゃ。


だって私、知ってる。

好きな人に誤解されたくないって気持ち、嫌ってほど知ってるから。

「さよなら。もう来ません」

「……」

「それと、色々ごめんなさい」


それだけ言って、図書館を出た。

――――先輩を紹介してもらった理由は、私が失恋したからだった。

ただの部活の後輩だったのに、浮気だと誤解され、ふられた。

今は昔話にできるけど、あの時は悲しくて悲しくてどうにかなっちゃいそうだった。

そんなとき出会ったのが、吉川先輩だった。

今でも覚えてる。


吉川先輩が、抑揚のない声で、私の頭を撫でて、「信じてもらえないって、辛いよね」、と、言ってくれたあの日。

「っ…」

抑え切れない、あの衝動。

無表情なあなたから伝わった優しさに、胸が裂けそうだった。


…放課後の図書館、左端の1番後ろの席、私とあなたの定位置。

窓ガラス越しに聞こえる運動部の掛け声、

睫毛を揺らすページをめくる音、

飲みかけのラテの伸びた影、

それに添えているあなたの綺麗な指、

少し大きめのセーター、
長めの前髪、口角の丸い影、一重の瞳、白い肌。

全部私の、特別な時間だった。

例えあなたにとって、何気ない時間だったとしても。

先輩、あなたが好きです。

「せんぱいっ…ぅ」

でも、もうあなたに好きって言っちゃ駄目なんだ。

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