アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「もう、傷心に付け入れて手に入れる愛なんて、トラウマ以外のなんでもなかった。
だから嘘ついた。
蓮見を好きになっちゃいそうだったから、蓮見が傷つく前に、自分が傷つく前に、離れようって、思ったんだ…っ。
でも、無理だった。
わかりましたって、蓮見が無理して笑った時、めちゃくちゃに抱きしめたかった。
もう、この一週間、寂しくて気が狂いそうだったっ…」
――――気付いたら、先輩に抱き着いてた。
もう、言葉なんかじゃ足らなかった。
愛しくて、切なくて、悲しくて、愛しい。
先輩の過去も傷もトラウマも、なにもかも抱きしめてあげたかった。
私がそばにいるよ、とか、私は流されるほどの軽い気持ちじゃないよ、とか、言いたいことはたくさんあったけど、どれも安っぽく聞こえる気がしたから、1番伝えたいことだけ言うよ。
「先輩、好きですっ…」
「っ」
「大好きですっ…」
「……うん、俺も、好きだ」
「っ」
「好きだっ…」
だって、好きになっちゃったんだもん。
そう、何度も自分に言い聞かせてきた。
ただ、あなたのそばにいたかった。
ただ、あなたを好きでいたかった。
どんなに可能性がなくても、返ってくるものは何もなくても。
「…先輩、お、お願いがあります」
「なに?」
「もっかい、呼んで下さい、名前…っ」
「香苗」
「もっかい」
「香苗」
「もっと」
「香苗」
「もっ…、ぅわっ」
「あんた可愛い、本当に」
「……く、苦しいですっ、先輩…」
「ずっとこうしたかった」
―――きっと明日、図書館の扉を開ける瞬間が、1番私を幸せにするだろう。
窓ガラス越しに聞こえる運動部の掛け声、
睫毛を揺らすページをめくる音、
飲みかけのラテの伸びた影、
放課後の図書館、左端の1番後ろの席、私とあなたの定位置。
こっちを向いてって言ったら、先輩は、本じゃなくて、その瞳に私をうつしてくれるだろうか。
もし目が合ったら、きっと1番に言うよ。
好きだよって、1番に言うよ。
end