アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「イズミは、あったかい塩水と冷たい塩水どっちがいい?」
「どっちも嫌です」
即答すると、アキ君は目を見開いた。
「えっ、コーヒーとか飲めるの?」
「味覚も消化器官も人間と全く同じですと何度も申しております」
「あーそうだったね」
魚が焼けるまでの間、コーヒーを飲むことにしたのか、アキ君はコーヒーを二つ持って、私の隣に座った。
彼の前髪は長く瞳はあまりよく見えないが、鼻が高いので横顔がとても美しい。一度その前髪をちゃんとどけて瞳を見つめてみたいが、きっと彼は嫌がるだろう。
色素の薄い私の髪の毛とは違って、彼の髪は真っ黒だ。因みに服装も黒のパーカーを着ていることが多いから、きっと黒が好きなのだろう。
真っ黒なコーヒーを、彼と一緒に飲む。温かくて、ほろ苦くて、落ち着く。
ふっと彼の方を向くと、彼は柔らかく微笑んだ。
「砂糖じゃなくて塩入れたの気付いた?」
「ええ、クソマズイです」
「海思い出すでしょ」
この人は、やっぱりクズなのか、そうなのか、そうなんだな?
私は少ししょっぱいコーヒーを頑張って飲んだ。家主の出してくれたものを残すなんて、言語道断である。
一生懸命飲んでいると、アキ君が私のマグカップに手を添えた。
「イズミは律儀だなあ、俺の友人にこの間同じことしたけど殴られたよ俺」
「ご友人になんてことを……」
「はい、イズミは俺の砂糖のやつと交換。エチオピアではコーヒーに塩を入れて飲むんだよ」
そう言って、アキ君が私のマグカップと自分のマグカップを交換した。
「俺の母さんはエチオピア人でね」
「ええっ、そうだったのですね!」
「名を文子と言ってね……」
「ああっ、さっきの宛名の……! 随分日本的なお名前なんですね……」
真剣な表情でそう呟くと、アキ君はクッと笑った。
それから、コーヒーをテーブルに置いて、先程届いた文子様宛の手紙を手に取った。