アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
人間なら誰もがわかる心の痛みを、分かってあげられない。こんなに悲しいことはない。
泡となって、消えてしまいたい。
今、本当にそう思っている。
「アキ君は、覚えていないかもしれませんが、あなたは一度私が外部の人間に見つかりそうになった時、私を助けてくれました」
「イズミ、ねえ……泣かないで」
「今度は私があなたを助けたいのに……っ」
ポロっと涙がこぼれて、足に落ちそうになったのを、アキ君が手のひらで受け止めた。
「覚えてるよ、イズミのこと……報道陣が来てたから、心配で海を見張ってたんだ」
「え……?」
彼は、私のことを覚えていてくれた……?
まさかの告白に、私はかなり動揺していた。
「……報道陣がネタにしたがるように、やっぱり元々共存しえないんだ、俺達は」
彼の言葉に、私はずきっと胸が痛んだ。
「でも、共存しえないはずなのに、君と俺は、日常すぎる日常を過ごしてる」
「え……」
「俺と一緒に暮らして、生きづらいことがあった?」
その問いかけに、私はぶんぶんと首を横に振った。
「イズミ、人間だって、人の痛みを百%分かち合うなんてことは不可能なんだよ。……だから、この世から事件だって絶えないんだ」
彼の前髪をかきあげていた私の手を、彼がゆっくりと外すと、ぱさっと髪が彼の瞳に被った。
それから、彼のサラサラとした冷たい手が、初めて私の頬に触れた。
人間の手は、こんなにも優しいものなのか、と、また涙が出そうになった。
「人の繋がりに百%を求めたら、それは絆とは言えないよ。一つのデータになってしまう」
アキ君が細い指で私の涙を拭いながら呟く。
「分かり合えない所があるから、人っていうのは楽しいんじゃない? だって、全てわかってしまったら、さっきのイズミみたいに、痛みを分かち合えなくて泣くなんてこと、できない。相手の事を知ろうともしない」
「アキ君……でも私は」
「イズミの心は人間と一緒じゃないの?」
「心……」
「イズミは、人間だよ。そんなにクッキリと俺との境界線を引かないでよ、寂しいじゃん」
ーーそうか、私は自ら彼との間に壁を作っていたのか。
人魚がこんなこと言ったら笑われるかもだけど、まさに目から鱗であった。
そんなこと、アキ君に出会わなければ気づけなかった。 絶対に。
人間だと言ってもらえたことが嬉しくて、思わず彼に抱きつくと、彼は私の腰まである長い髪を触って、これ染めてるの? と全く空気にそぐわない発言をした。