アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「さむいね」
「さむいね」
と、彼女が言った。
彼女とは、クラスが同じなのに2、3回くらいしか話したことが無かった。
受験生である俺は朝勉のためにいつも早く来ているので、偶然登校が一緒になったことに驚いた。
駅から学校までの長い一本道。彼女の数メートル後ろを歩いていると彼女が突然振り返りさむいね、と言った。
「ああ、うん」
俺はマフラーを口元まで当てたまま、愛想のカケラもない返事をした。でも一応イヤホンは取った。当たり前か。
寒さで赤くなった彼女の頬をぼんやり見つめて、俺はかなり間をあけてから、さむいね、と彼女と同じセリフを繰り返した。
田舎道だから、辺りには車も自転車も通っちゃいない。
「センター試験、もうすぐ始まるね」
「ああ、そうだな」
「東京に行っちゃうの?」
隣で話すわけでもなく、目を合わせるわけでもなく、ただほんの少し距離を縮めて、彼女が歩くスピードに合わせた。
「俺は……そうだな、受かったらだけど」
「そっかあ……」
「残るの? ここに」
「私はここにいるよ」
そう言って、彼女は笑った。
……白い吐息が、空に溶けていく。マフラーに埋れた猫っ毛の髪が、少し崩れている。指先が冷えないように手をポケットに突っ込んでいる。寒さで頬を赤くしながら、俺を見つめる彼女。
……俺があげた緑のマフラーをつけながら、俺を見つめる彼女。
そんな彼女と、もう、会えなくなるのかもしれない。そう思うと、胸が軋んだ。