アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
布団から飛び出ようとしたが、お腹にイチの腕が回っているせいで脱出に失敗した。
ロボットの力に人間が勝てるはずがなかったけれど、抵抗を繰り返していると、徐々に腕の力が緩み始めた。
不思議に思い、そろっと振り返りイチを見ると、彼は何かに縋るような表情をしていた。
「ヨリ様、俺は人間に近づけただろうか……」
突然吐き出された弱々しいイチの言葉に、ぎゅっと胸が苦しくなる。
そうだ、イチは、人間じゃないんだ。
イチが人間に近づきたがる度に、私は彼との距離を実感してしまう。実感する度に、とてつもなく寂しい気持ちになるようになったのは、一体いつからだろう?
一体いつから、彼を人間と思いたいと、感じるようになってしまったのだろう?
そんな途方もない願いは、持ちたくなかったよ。
「ヨリ様、ごめん、余計なことは考えないでいい」
押し黙ってしまった私を心配したのか、イチが少し体勢を変えて、私の顔を覗き込んだ。
イチの指が頬に触れたけど、私は目をそらしたままでいる。イチの視線を感じながら、イチから、さっきの途方もない願いから、目を背けている。
「……ロボットが、唯一人間に近づけない機能はなんだと思う?」
今の私は会話をする意思がないと感じたのか、ぽつりとイチが、私の手を握りながら問いかけた。
「それは力だよ。力だけは、人間より遥かに強く作られている。脆くて傷つきやすい人間を、いつでも、いつまでも守れるように……」
イチの大きな手が、私の手を安心させるように包み込んでいる。
「できれば人間に生まれたかったけど、でも、ヨリ様を守れるなら、ロボットでもいいかなって思えるようになったんだ。……今、ヨリ様の体温を感じることができて、ますます、ヨリ様を一生守りたいって、そう思った」
「ふ、一生って、大袈裟だな」
イチのプロポーズめいたセリフに思わず笑ってしまうと、イチも苦笑をもらした。
「心酔しきっている、ヨリ様に。困ったな、非常に」
「その言い方全然困ってなさそうなんですけど……」