アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]


呆れたように少し反論する。

イチがそんな私を見て、わずかに微笑んでまた体勢を変え、ギシッとベッドを軋ませた。

……イチは、一体いつからこんな表情をするようになったのだろう。

イチの影が顔の真上にかぶさって、視界が少し暗くなる。釣り目がちの大きな黒い瞳、完璧な形の唇、女の子のように長いまつげ……サラサラとしたイチの黒髪がわずかに頬に触れた。

思わず見惚れているうちに、徐々に唇が触れ合おうとしていることに気づいた。

私はすぐさま顔を背けてイチを突き飛ばした。

「油断も隙も無いな本当に!」

「ハア……本当にヨリ様は油断と隙しか無い」

突き飛ばされて乱れた髪を直しながら、呆れたように彼はため息をつく。

「前から思ってたけど私のことなめてるよね?」

そう言い放つと、イチは目をパチクリさせてから、また怪しげにニッと口端を釣り上げ笑った。

そして、私の手をとり、ベッドの上でまるで忠誠を誓う臣下のように跪く。

「まさか。心より尊敬しお慕いしておりますよ? ヨリ様」

……間違えてこそ、〝人間〟なのだ、と人間の技術者は言うけれど、極力間違いなどおかしたくない。

それなのに、私はどうやらこのロボットのしつけを、盛大に間違えてしまったようだ。

彼は、しっぽをふる犬のように見せかけて、飼い主様が油断する時を舌舐めずりをして待っている。

私とこの生意気なロボットの攻防戦は、しばらく続きそうである。

「……よく言うよ、本当に」

呆れたように呟く私を見て、彼は「嘘だってばれた?」と言って、いたずらっ子のように笑ったのだった。



end

< 54 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop