アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
とろけだすような夕日が差し込む縁側に麦くんが寝転んでいると、あまりの美しさに目眩がしてくる。
思わずカメラを手で作って麦くんをフレームにいれると、彼は変態、と言って笑った。
「しかしそのシャツ……一体どうやったらこんなに派手にボタン取れるの?」
「なんかギャルさんたちに取られた、入学式に」
「入学式に!? それもう男女逆だったらもっと騒がれてるよ?!」
「俺ちょっと寝るねー」
そう言うやいなや、私のツッコミをフルでシカトして麦くんは目を閉じる。その容姿じゃなかったらふつうそんなに自由過ぎる行動許されないぞ、おい、分かってんのかイケメン野郎。
私は心の中で悪態をつきながら、くしゃっと脱ぎ捨てられたシャツを取りに彼の元へ向かう。
夕日に照らされた彼は芸術品と言えるほど美しく、思わず恍惚として見入ってしまい隣に座ってしまった。
……まさか彼がこんなに化けるとは知らなかったし、世の男性はふつうもっと男臭いものだってことも知らなかった。
そういやこの間真っ黒に日に焼けたラグビー部の部長に告白されたけど、普段麦くんしか男の人を知らなかった私は免疫がなさすぎて唖然としてしまい、ぽかんとした顔のままお断りをした。
……あの人は、“オス”だった。確実に。
誰かを、私を、カクベツな愛を以ってしてトクベツな存在にしてやりたいという、オスのにおいを感じさせた。
「麦くん……」
麦くんもいつか、そうなるのだろうか。
誰かをトクベツに、カクベツに愛する日が、くるのだろうか。
あなたのトクベツにもしなれるのなら、それはもうカクベツに甘美で最高な気分だよ。
そう思うのは、トクベツな貴方に愛されることへの優越感に浸れるから?
「教えて欲しい……」
綺麗に生え揃った睫毛を伏せて寝静まっている彼の胸板に直に触れた。当たり前だけど胸なんかなくて、私とは全く違う男の人のカラダ。
吸い付くような肌に、まるで一体化したような気持ちになって、気づいたらキスをしていた。
いやあ、まいったな、これじゃあ肉食系女子と変わらないじゃないか、私よ。晴れて私も彼女達の仲間入りってわけか、残念だ、とても。
麦くんもきっと、こんな私を残念に思うだろう。
高校進学とともに麦くんがみんなに優しくすることが嫌になった。今までそんなことなかったのに、麦くんが周りの人に高く評価されていることが、妙に胸をざわつかさたのだ。
私も所詮、トクベツな人に好かれたいその他大勢の1人なのだろう。
あなたはきっと、こんな私を知ったら呆れる。
「……ん、粋ちゃん、苦しい」
「え……」
ずっと唇を押し当てていたら、麦くんに唇を甘噛みされてハッとした。
お、起きていたのか……これはまずいぞ……。
何も言い訳せずにひたすら冷や汗を額から流していると、麦くんが私の後頭部に手を回してぐっと距離を近づけた。
「なに、粋ちゃん俺のこと好きなの?」
「す、好きといいますか……なんというか……」
「ほう、好きじゃないのにチューするような子だったのか?」
麦くんの鋭い瞳に捉えられて、私は言葉を詰まらせた。