アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「手応え無いのは感じてたから長期戦で考えてたけど……こんな誘惑の仕方されたら麦くんさすがに耐えられないよ」
「麦くん耐えようとしてなかったよ、餌に引っかかったのに喜んで飛びついてたよ」
冷静にそう突っ込むと、麦くんはそうでした、と笑ってまた私にキスをした。麦くんキス好きなのかな。
とにかくこの気持ちを整理しようと必死に考えていると、麦くんが私の頬を手で挟み、真っ直ぐ見つめてきた。
「粋がトクベツだよ、1番大切なんだ」
「え……」
「粋だけがトクベツなの」
……トクベツ、私が、麦くんのトクベツ……?
唯一の存在であるってこと? 1番だってこと?
クラスの清楚系美少女のありさちゃんでもなく、Eカップでスタイル抜群の涼子ちゃんでもなく、肉食系ギャルのさきちゃんでもなく、私が?
ぽかんとしていると、麦くんがむにっと頬を伸ばした。
「少しは響いた?」
「う、うーん……」
「嘘でしょ結構頑張ったよ今俺」
……麦くんも、誰かをトクベツに、カクベツに愛する日が、くるのだろうか。
そう考えると悲しかった。
すごくすごく悲しかった。
だから最近ツンツンしていたの、素直になれずにいたの、ごめんね、でも、私、麦くんのトクベツになれて本当に嬉しい。これって、やっぱり純粋に麦くんが好きってことだよね?
そう問いかけると、麦くんはふっと笑みをこぼした。
「そうだと思いますよ?」
「わ、私もそうだと思う……」
「粋ちゃんはあれだね、とりあえず今一回麦くんにキスしようか。俺からだとちょっと今抑えられそうにない」
「上半身裸だしね」
「忘れてたごめんねとりあえず着るね」
そう言ってワイシャツを手に取った彼に、私は自らキスをした。
キスをしたら気づいてしまった。
私は、やっぱりあなたのトクベツになりたいです。
周りから評価されているからあなたはトクベツなのではなくて、私にとってずっとトクベツだったあなたが、皆のトクベツになってしまったことがずっと寂しかったんだ、私。
「……やべーな」
初めて麦くんが照れてる顔を見た。
とろけだすようなオレンジ色の光に照らされながら、2人分の熱はさらに上昇していく。
気持ちにハッキリと名前をつけると、こんなにも気恥ずかしくなるものなんだね。
そう呟くと、麦くんは夕日色の瞳を細めて優しく笑った。そんな彼を見たら、思わず言葉が溢れてしまった。
「好きだよ、麦くん」
……とりあえず、もう何回かキスをしたらシャツにボタンをつけよう。
正直お裁縫そんなに得意じゃないからだるいなって思ってたけど、
私がボタンをつけたシャツを学校で着ているあなたを想像したら、
なんだかすごく彼女 (トクベツ)っぽい気持ちになれそうな気がしたから、つけてあげる。
end