アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「なんで、まだそのマフラー持ってんだよ……」
―――彼女とは、クラスが同じなのに2、3回くらいしか話したことが無かった。
でもそれは、高校生になってからの話だ。
15歳の時、半年だけ付き合った。だけど受験のせいで連絡を取らなくなり自然と別れた。まさか彼女も第一志望を落ちて、同じ私立の高校になるとは、思ってもみなかった。同じクラスになった時は気まずくて、目も合わせられなかった。それなのに、なぜ、そのマフラーを。
「今日私、推薦の結果発表なの。だから願掛け」
「……」
「こんなに朝早く起きたのも、緊張して眠れなかったから」
カタカタと、ポケットから出た彼女の指先が震えている。細い指が緑のマフラーをぎゅっと掴んだ。
「願掛け逆効果だろ……高校受験の時も、そのマフラーしてて落ちたじゃん」
「……確かにそう思うと怖いね」
「おい」
「でもこのマフラーしてたから、今日話しかけられた」
「……」
「卒業まで、気まずいままは嫌だったから」
彼女の緑のマフラーが、冷たい風になびいた。
中学生の頃、このマフラーをつけていた彼女に別れを切り出したあの日がフラッシュバックして、俺は口を開いた。
「……気まずい、とは少し違う」
「え?」
「どうやって話しかけたらいいのか、わからなかった」
「……」
「わからなかった……ずっと……タイミングが……」
――紺色の制服に、緑のマフラーが絶妙に映える。
あの日も、こんな風に寒くて真っ白な、朝だった。
連絡を中々取れないことが申し訳なくて、俺より彼女の方が賢いことが悔しくて、情けなくて、別れを告げた。俺がガキ過ぎだった。
……俺は、そもそもなんで彼女にマフラーを、あげたんだっけ。