アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
確かにこの前聞かれた時は麦くんのことを異性として好きだとハッキリ言えない状態で、でも愛犬のおはぎと同じくらい大切に思っているのは事実だったので、それだけ伝えた。
もう少しはやく気づいていれば、さきちゃんを怒らせなくて済んだのだろうか。
私ってなんでこんなにワンテンポ遅れているんだろう、さきちゃんがイライラしている理由も分かる、本当に自分が嫌になる。
もしかして、私のこののんびりさに麦くんもイラついているかもしれない。普通の恋人同士ならしていることも、私がこんなだから言い出せずにいることがあるかもしれない。
「そ、それはまずいよ!」
「え、なにが!?」
このことは今日の帰り道に聞いてみなくては。
なんだか焦ってしまった私は、今日の午後の授業は全く頭に入らなかった。
授業が終わり、いつも通り麦くんと帰ることになった。
船に乗って、町に着くと、長い長い道のりを自転車で漕いで、でこぼこで不安定な道は自転車を押して歩く。田んぼの畦道を通ると、やっと麦くんの家が見えてくる。
いつもはもう慣れっこな移動時間なのに、今日はとても長く感じた。
麦くんの家の前に着くと、彼は少し不思議そうに首を傾げた。
「粋ちゃん、今日元気なくない?」
「じ、実は少し聞きたいことがあって!」
「とりあえず家入んない? 暑い。あ、今日もハーゲンダッツあるんだけど粋ちゃんも食べる? まあ兄のなんだけどね」
相当な覚悟で切り出したのに、それを見事にいなして麦くんは中に入って行った。
なんかよく考えたら私よりスーパーマイペースなこの人が、私ののんびりさに苛つくことなんてない気がしてきた……。
なんだか突然戦意喪失した私は、麦くんからアイスを受け取り、階段をあがって麦くんの部屋に向かった。
「今日はクーラーある部屋じゃないとさすがに辛いね」
普段麦くんの部屋に入ることってそんなに無い。なぜなら麦くんは自分の部屋にあまりいないからだ。
扇風機とクーラーをつけて、部屋が完全に冷えるまでなんとかアイスで凌ぐことにした。
麦くんはベッドに座って、私はそんな麦くんの足元にあるクッションの上に座っている。
まったく遮光機能のないペラペラの水色のカーテンから、少しだけ柔らかくなった夕日が降り注いでいる。