アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
麦くんは私の言葉に驚きむせていた。
麦くんが好きだ。麦くんは男の子だ。それは分かっている。
でも、付き合ったことはおろか麦くん以外に好きな人ができたこともない私には、恋愛の仕方が分からない。
私のこの鈍さやズレがいつか麦くんをイラつかせてしまうのではないか……そう思うと胸が詰まる。
そのことをぽつぽつと語ると、麦くんはうーん、となんとも言えない反応を示した。
「苛つきはしない、でもムラっとはする。あ、でもさっきラグビー部の奴からメッセージきてたのはいらっとした」
「えっ、そうだったの!」
「そりゃそうでしょうよ」
そう言って麦くんは苦笑をもらす。背後にいるから表情が見えないけど、なんとなく呆れたような顔が浮かぶ。
麦くんは私のスマホをさりげなくテーブルの上に置いてから、私のお腹に腕を回す。食べかけのアイスはすでに溶けていた。
「どうしよう……」
麦くんがイラっとしていたことに何故気づけなかったのか……また自己嫌悪に陥った私は思わずつぶやいてしまった。私のこういった鈍さには、本当に呆れる。きっといつか麦くんも呆れる。直したいのに、直せない。
「ふ、なんで粋ちゃんが落ち込んでるの」
「私鈍いからっ、何かあったらなんでも言ってね!」
「なんでも?」
「わ、私、麦くんに嫌われるのはとても怖い……」
環境が変わって、なんとなく自分は少し抜けてる人間だということが分かってしまった。分かってしまったら、途端に嫌われることが怖くなった。
もし麦くんに嫌われたら、私の心は潰れてしまう。
「粋ちゃんバカだろ」
「バカだよ、麦くん私の成績知ってるじゃん」
「……でも、安心した、そんな風に思ってくれてるなら、粋ちゃんはちゃんと俺のこと男として好きなんだって分かったから」
それってどういうこと?
もしかして麦くんは私の言う“好き”に、まだ確信を持てていなかったのかな?
「……麦くん、私、麦くんのことちゃんと男の子として好きだよ、ライクじゃなくてラブの方だし、麦くんとチューするの気持ち良くて好きだよ」
彼を安心させてあげたくてそう言うと、お腹に回っていた腕にぎゅっと力がこもる。