アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]

麦君のお兄さんが町を出ていく、ということで暫くかなり喜んでいた麦君だけど、出て行く前にみっちりネチネチと勉学について説教され始めたそうだ。

「じゃあ、また帰りにね、粋ちゃん」

「うんまたね」

麦君とはクラスが違うから、クラスでの麦君を私はよく知らない。

ただたまに、昼休みに教室まで麦君を見に来たり、アドレスを書いた紙を渡しにくる先輩がいると聞いたことがある。

そういうのを聞くと、嫉妬とか以前に麦君はやはり普通の人とは違うんだなあ、と感心してしまい、なんだか距離を感じて寂しくなる。

そんな風にぼんやりしているうちに昼休みになり、渡り廊下を1人で歩いていると、頭にぽんと誰かの手が乗った。

「おはよう、粋」

「あっ、禄(ろく)さん、おはようございま……今来たんですか?」

麦君とそっくりな端正な顔立ちの禄さんは、とても高そうなグレーのコートを制服の上にカッチリと着て、ぽかんとしたままの私を見下ろしている(カバンを持ってるから多分この人今登校してきたんだ…… )。

禄さんのファンは麦君とは逆に年下に多く、もしこの状況を同級生に見られでもしたら大変だ。一人で良かった。

長めの前髪からのぞく少し眠たそうな瞳……麦君より少し垂れ目なのに目力が強く感じる。

「これさ、粋からクソ麦に渡しといてくれる? 俺から渡したらあいつ刃物出すからさ」

手渡されたのは模試の参加申込書だった。対象は新2年生ではなく、新3年生となっている。

「これで七割取れなかったら予備校通わせるって言っておいて」

「ろ、禄さんでもこれ……新3年生が対象で……」

「うん、でも、うちはそういう家だから」

「は、はあ……」
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