アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
「でも、禄さん優しいから捨てないでしょ?」
「絶対捨てないよ、粋が昔くれたマーブルチョコまだ取ってあるよ」
「そ、それは捨てて下さい!!」
全力で突っ込むと、禄さんは消えちゃいそうなくらい小さく笑みをこぼした。
禄さんの笑顔はかなりレアなので、なんだか私まで嬉しくなってしまった。
それから、彼は私の頭をまた撫でた。麦君がキス好きなら、禄さんはよしよし好きだ。
「俺も粋と同い年だったらな」
「はは、禄さんが麦君と双子とか、想像つきません」
「ああでも、同い年でも、いつか離れるのは一緒だもんな……」
え……。
禄さんの言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
しかしその時、弾かれるように禄さんの手が頭から離れた。
「気安く触んな」
……いつのまにか、焦って駆けてきた様子の麦君がいた。
麦君は私の腕をぐっと引いて私を背中に隠し禄さんを睨んでいた。
「何言ったんだよ、粋に」
「何も言ってないよ、いずれお前も東京の医大へ進学して、6年間町を出ていくことになるなんて言ってないよ」
「たった今言い切ったな」
ろ、6年間……も……いや、実際には研修もあるからそれ以上か……。
そうか、麦君は6年間も町を出て行ってしまうんだ。
麦君が実は本当にお医者さんを目指していることは知っていた。
悪態をつきながらも、麦君の部屋には医療関係の本が数冊置いてあったからだ。
「6年間も粋を待たせるの? 待ってもらえないよ? 帰ってきたら正一と結婚してるかもよ?」
「や、やめろよ具体的な人物出すの……」
「彼女欲しいだけなら粋はやめろよ。もっとどうでもいい奴にしろ」
もっと……どうでもいい奴……?
今まですぐに反論していた麦君が、急に言葉を詰まらせた。
それから、私の腕に力を込めて、強引に引っ張って渡り廊下を歩き出した。
「あ、申込書だけはちゃんと出せよ、出さなかったらハーゲンダッツ二箱買わせるからな」