アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
……私は、町から出られない。出る気もない。何故なら私を女手一つで育ててくれた母親がいるから。麦君と私を孫のように可愛がってくれたおじいちゃんおばあちゃんがいるから。これ以上若い人がいなくなってしまったら、きっとあの町はいつか……そんなことにはしたくない。
私だって、麦君と同じくらい地元が好きだ。
6年という月日は、今の私にとって人生の三分の一以上で、どれだけその時間で色々なことが変わって行くのかを私は知らない。
知らないから、分からないから、簡単に約束なんてできない。
でも、麦君が好きだ。
それだけじゃ、ダメですか?
「こんなことで、離さないで……っ」
気づいたら、思いもよらない言葉が自分から出ていた。
チャイムは既に鳴っていた。
大きな木々の影が風で揺れた。
「絶対に離さないって、約束して……っ、そしたら、待っててあげる……」
……私、こんなに強気な性格だったっけな。
自分で自分の発言に驚いてるよ。
だってまるで麦君はずっと私に飽きないことを前提に話してるような台詞だもの。
あんなにイケメンな医者がもしいたら、捨てられることを不安に思うのは私のはずなのに。
「絶対離さない」
麦君は、瞳を揺らしてから、ぎゅっと私をさらに強く抱き締めた。
離さない、という思いを指先に込めるように、強く。
「……絶対離してやらないから、信じて待ってて」
「ど、どうでもいい人と浮気しちゃ嫌だよ」
「粋ちゃん以外に性欲わいたことないから大丈夫だよ」
「な、なに言うのっ」
あまりにもな発言に赤面してぽかっと胸を叩くと、腕を掴まれた。それから、掴んでいない方の手でシャーっとカーテンを閉める。
「ちょ、ちょっと待っ、麦君……?」
暗くなった教室の端に追いやられて少し戸惑っていると、完全にスイッチの入ってしまった麦君が私の額にキスをした。それで力が抜けてずるずると思わず座り込んでしまうと、麦君も同じようにしゃがんだ。