アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
きっとあの時彼が彼女からもらったラムボールは、レーズン入りだ。
レーズン入りでも、きっと、あなたは美味しいと言って、幸せそうに食べたのだろう。
キャベツを切っているはずなのに、ラム酒とチョコの香りが蘇る。
あの、アルコールの混ざった一瞬で酔ってしまいそうな甘ったるい香りが、8年前から脳に染み付いて離れない。
「 理人(りひと)君、ごめん、上の棚のフライパンをーー……」
「はい」
私の言わんとしてることを既に知っていたのか、気づいたら背後に彼がいた。
「……ありがとうございます」
「何作ってんの、野菜炒め?」
頭一つ以上大きい彼に背後に立たれると、なんだか凄くドキッとして緊張する。
理人君は四つ年上で、幼い頃同じピアノ教室に通っていて仲良くなった、言わばお兄さん的な存在だった。
理人君は高校生になるとピアノをやめてしまったけど、それでも私とはたまに遊んで勉強なんかも教えてくれたので、私はまんまと彼を好きになってしまった。
想いを伝えようと決心するたびに、彼には恋人ができた。逆に私に恋人ができると、彼は突拍子もなく別れたりした。そんなことを繰り返しているうちに、タイミングなどとっくに逃してしまった。
「野菜炒めじゃないです、回鍋肉です」
「漢字で書くとどんなだっけ」
「回るに、鍋に、肉、です……って、危ないですから、ちょっと」
「うん?」