アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
床を見つめて俯いていた彼が、雷を打たれたかのように背筋をピンとさせて顔を上げた。それどころか、驚き過ぎてむせている。
「今度こそちゃんとしてくれないと、その人の所行っちゃいますからね、私」
「……いや、待て待てそんな、急に」
「じゃあもういいで」
投げ出すようにそこまで言いかけた時、ぐいっと腕を引かれて、抱きしめられた。
それから、ハッキリとした声で、耳元で囁かれる。
「……好きだから、行くな」
「え……」
「行くなよ、星乃っ……もう逃したくない、お前を……」
――ラム酒とチョコの香りが、鼻腔をくすぐる。
高校生の時、大学生だったあなたの為を思って作ったラムボール。
甘い気持ちと甘い匂いを閉じ込めて、飛びっきりに酔ってしまうような、そんなラムボールになるように作った。
私の思いに気づかずに、一口ずつぺろっと全て食べてしまったあなた。
もしかしたらあの時のアルコールが、8年経って今更やっと効いてきたのかな?
もしかしたら、ラム酒を分量より少し多めにいれたのが良かったのかもしれない。
ああ、とりあえず、もう、私は。
「待ちくたびれましたよっ……もう」
私は自分の涙を彼の肩でぬぐって、抱きしめられたまま彼の背中を叩いた。
「そ、そうだよな……すみません」
「馬鹿なんじゃないですか、本当。好きな人なんてあなた以外いないし、関西に帰る直前で告白するなんて」
「え!? 嘘だったのか!?」
「本当に、馬鹿なんじゃないですか」
ごめんって、と言って、彼が私の頭を宥めるようによしよしと撫でた。