アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
保坂の綺麗な指が私の髪をかきあげた。
とろんとした瞳で私を見つめながら、唇を指でなぞる。

"今"私の隣にいるのは、保坂、なのだ。

時間はもう戻らないし、私は"今"私のそばにいてくれる人と、向き合わなきゃいけないのだ。

体の中にまだ染み付いている、元彼を好きだった気持ちが、じんわりと溶けていくのを感じた。

かちこちの岩石のようだった好きという気持ちが、まるで雪が溶けるかのように、さらさらと水に戻って行く。

それは私の涙となって、頬を伝った。

ああ、好きだったな。本当に。

でも、もう、あの時の全ては過去のことなのだ。


「……悪いけど、泣くんだったら、全力でつけ込むよ」

「泣いてないっ」

忘れようと思って保坂を誘ったわけじゃない。
だけど、自宅で男と2人で飲んで、何もないわけないことは覚悟の上で呼んだ。いくら私だってそこまでバカじゃない。
何かあったらあったで、それでもいいやと思ってた。

「泣いてないっ……」

バカだな、私。
"それでもいいや"なんて、そんな風に自分を投げ出すなんて、こんなに恥ずかしくて情けないことはないよ。

"今"、私と向き合ってくれているのは誰なのか?

苦手なビールを飲み干してくれたのは、誰なのか?

苦い過去を溶かしてくれたのは誰なのか?

「びっくりするほど情がわきまくってるんですけど」

「保坂、ごめん私本当に最低なことを……っ」

「俺も最低だから、一緒だな」

彼の手が後頭部に回って、唇が重なった。
熱のこもった吐息が、体温を上昇させていく。頭の中の整理が追いつかない。私は、何がしたいんだろう。どうして今彼のキスを受け入れてしまったんだろう。どうしてなんだろう。どうでもいいやって、思ったわけじゃないのに。
< 83 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop