アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
就職先だって、本人は高収入女性のヒモやりますとかなんとかふざけたことを言って中々明かさなかったけど、千歳さんの友人が来店した時に、友人がぽろっと暴露してしまい大手広告代理店に内定が決まっていることがわかった。
それを聞いた女性アルバイト店員たちは更に千歳さんフィーバー状態で、私なんか入る隙間もなかった。
アルバイト店員の中に、綺麗なお姉さんはたくさんいた。かたや私は大手広告代理店、という言葉もピンとこない子供だ。色気も無ければお金も無いし、就職先だってどんなところになるか分からない。まだまだ未知なことが多過ぎるただの女子高生で、勝負できるところなどひとつも無かった。
だから、せめて仕事では迷惑をかけないように、高校生ながらせっせと働いた。
「折戸さん、いつもトイレ掃除してくれてるよね、トイレ好きなの?」
ラストまで残って閉めをしていると、トイレ掃除を終えた私に千歳さんが話しかけてくれた。
「あー、はい、トイレ好きです」
そんなわけねえだろ。
そう思いながら適当に返すと、千歳さんはくっと喉で笑った。
「たまには、りさとかにもやらせればいいのに」
千歳さんが、女の人を下の名前で呼ぶと、なんだか少しどきっとするし、モヤモヤもする。
お店のBGMだけ流れている静かな店内で、千歳さんと二人きり。こんなことは今まで何回もあったし、何か起こればいいと思っても、何も起きることは無かった。起こす気も無かった。
だって私は、きっと対象外だから。